連載コラム/Column：素晴らしきペルシャ絨毯の世界
第５回：ペルシャ絨毯の産地と種類 〜カシャーン〜
小さなオアシス都市で頑なに守られる絨毯作りの伝統
カシャーンは、「美しいタイルの町」という意味をもつサファビー朝期に栄えた古都です。
テヘランから南へ約260km、東のキャヴィール砂漠と緑地地帯にはさまれた小さなオアシス都市で、古くから絨毯と絹織物の産地として栄えました。テヘランとイスファハンのちょうど中間に位置します。
カシャーンの人々の気質は頑なところがあり、それ故に閉鎖的なところがあって、街並みも日干し煉瓦の上から泥を塗り固めた家がほとんどで、町の印象としてはいかにも田舎町といった感じです。それでも、フィン・ガーデンの裏には絶える事のない美しい泉が湧き出しており、風情があって静かな良い町です。古い家並みの中に佇むハビーブ・エブネ・ムーサー廟にはサファビー朝のシャー・アッパーズ１世が安置され、その棺に触れようとする礼拝者が絶えません。
名物はイラン発祥の花バラ“ダマスクローズ”
カシャーンは、サファヴィー朝における絨毯の黄金期以前には、陶器や絹織物など工芸の町として知られていました。赤いタフタやビロードは、この町の特産物でした。手織のビロードの技術には、絨毯との共通点が多く、工芸の腕とセンスの積み重ねが、絨毯にもしっかりと生かされているのです。自然環境には恵まれず、栽培できる穀物といえば大麦ぐらい。夏の極度な暑さから、人々は地下深く掘り下げた家に住んでおり、お椀を伏せたような形の屋根が特徴的です。カシャーンが手工芸の振興に力を注ぐようになったのも、このような立地面の不利な条件があったからなのです。
18世紀初めのサファヴィー朝の崩壊後には、この町はしばらくの間、荒野の中のゴースト・タウンという様相を呈していました。また、イランの国の花である薔薇（ダマスクローズ）の産地としても有名で、ローズウオーターも特産品の一つです。ダマスクローズの発祥はブルガリアなどといわてれていますが、実はイランだということは最近まであまり知られていませんでした。
ペルシャ伝統の「ファース結び」で織られる高品質な絨毯
絨毯作りもその気質を反映して頑固一徹で、アンティークの名品の数々を生み出してきました。カシャーンで作られる絨毯のおよそ80％はウールで、20％がシルクです。クムに絨毯作りを指導した産地にもかかわらず、現在では生産量、売れ行きにおいてもクムに差をつけられ、クムのような斬新なデザインの物はほとんどありません。しかし、職人気質の物作りの町カシャーンで作られる質実剛健なウールカーペットと同様、飽きのこないこの伝統柄のシルク絨毯には、丁寧に手作りされた物だけが備えることのできる魅力がにじみ出ています。クムはタブリーズに習って、今日ではそのほとんどが、生産量を重視して早く織れる鈎針を使って織られていますが、カシャーンの絨毯は手間と時間を惜しまず、丁寧で糸にもやさしく指でしっかりと織るペルシャ伝統の「ファース結び」で織られているので高品質で長持ちです。ですから、古くなってもいつまでも綺麗に使えるカシャーン産の絨毯には、イランの人々が信頼を寄せています。
代表的なデザインは中央にメダリオンを配し、周りに花や葉などをあしらったメダリオンコーナーデザインで、 アイボリーやレッドを基調としたものがカシャーンの伝統柄としてよく見られます。 メダリオン柄以外の物でも、絵画や肖像を描いたものなども織られていますが、奇をてらった文様や外国人の嗜好に合わせたような図柄は少なく、頑ななまでに伝統を重視しています。
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